COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg6 浅田斉吾(3)
「ラグビー選手のままダーツを持っちゃった感じです」
2013 PERFECT 第13戦横浜大会決勝。第1セットは両者譲らぬキープ合戦となり、先攻の野島が先取した。が、勝負はここまで。第2セットから、浅田斉吾のワンマンショーの幕が開いた。
第13戦 横浜大会 決勝 第2セット 第1レグ「501」
浅田 斉吾(先攻) | 野島 伶支(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
T20 | T20 | T20 | 321 | 1R | T19 | S19 | T20 | 365 |
T20 | S20 | S20 | 221 | 2R | T20 | T20 | S20 | 225 |
T20 | T20 | S20 | 81 | 3R | T20 | S20 | S20 | 125 |
S19 | S12 | IBL | WIN | 4R | – | – | – | – |
決勝の第2セット第1レグは浅田の先攻。第1RでTON80。野島は1投目にT19、3投目にT20を打つが136Pで差がついた。
第2Rで浅田は100Pを削り、野島は20のトリプル2本で140P。僅差に詰めたが、浅田は隙を与えない。第3Rは20のトリプル2本で140Pを削りTo–Go–81。野島は100PでTo–Go–125とし、浅田のミスを待った。
が、To–Go–81は、この日の浅田にとって、イージー。少し手間取ったものの、S19の後、S12で残り50をアレンジし、ラストショットをインナーブルにねじ込んだ。
1997年秋 高校日本一
1997年秋、東大阪市の近鉄花園ラグビー場。大阪で開催された「なみはや国体」ラグビー少年男子決勝のグランドで、浅田斉吾は汗に塗れていた。
地元大阪府選抜。ポジションはスクラムの要、ロック。先発出場の浅田は、チームの勝利に貢献し、大阪選抜は圧勝で佐賀を破り日本一の栄冠を手にした。浅田は大阪桐蔭のロックとして、花園(高校選手権)にも出場し、ベスト16に進んだ。
ラグビー漬けの3年間
浅田は1980年1月、大阪府茨木市の生まれ。大企業に勤める父、家庭を守る母、7つ年長の兄の家族の中、溢れる愛情を受けてすくすくと育った。
恵まれた体躯を活かし、中学からラグビーを始めた浅田は、名門、大阪桐蔭に進学する。待っていたのは、厳しいラグビー漬けの生活だった。
学校は生駒山の麓の大東市。毎朝5時に起床し、茨木の自宅から片道1時間半かけて通学。7時半から9時まで練習し、教室へ。体育科の授業は午前中で終わり、午後は練習に明け暮れる。練習が終わると、6時から9時半までは筋トレ。自宅に帰りつくときには11時を回る。休みは元日とお盆の年2日だけ。夏には必ず逃げ出す部員が何人か出る合宿。そんな生活を3年間続け抜いた。
そして手にした日本一の栄冠。が、浅田が得たものはそれだけではない。過酷な3年間の生活は、浅田にその後の、勝負師としての人生を勝ち抜いていくための糧を与えた。どのように過酷な試練にも耐えうる肉体と精神の強靭、戦う姿勢、漲る自信…。浅田のバックボーンは厳しい毎日を耐え抜いた高校の3年間に、確かに形成された。
相手をねじ伏せる
もちろん、それはプレイスタイルにも大きな影響を与えている。どんな状況にあっても、弱気になることがない。常に、戦う相手をねじ伏せる気概で、ボードの前に立つことが出来る。
浅田は自分のプレイを「ラグビー選手のままダーツ持っちゃった感じ」と笑う。真意を問うと、興味深い説明をしてくれた。
「ラグビーって、不良のスポーツだと思うんですよ。落ち着いて、平常心でプレイしろ、って言うんじゃないんです。(相手を)全員殺してしまえ、みたいな。そういうメンタルトレーニングをずっと受けてきたんで、それがダーツにも出ているんだと思うんです」
試合に臨む浅田には殺気が漂っている。いわゆる、スイッチが入った状態になる。そのときの浅田には、勝負以外眼中にない。その激しさが、ときに周囲の誤解を生むことになる。
(つづく)
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○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。