COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg8 谷内太郎(2)
「レストランバーの店長になっていた」
13年シーズン第9戦で悲願の初優勝を遂げた谷内太郎は、12戦の広島で2勝目を挙げると上位争いに喰いこみ、総合ランク5位で最終戦を迎えた。
すでに年間総合1位は山田勇樹、2位は浅田斉吾に確定していたが、3位以下は混戦。3位小野恵太は635ポイント、4位山本信博は634ポイント。592ポイントで後を追う谷内は優勝すれば3位、優勝できなくても小野、山本の結果次第で3位をもぎ取り、幕が開きかけていた「4強時代」に待ったをかけることができる。
勝てば年間3位
山本、小野にとっても4強死守は至上命題。重圧のかかる最終戦で、山本は3回戦、小野は4回戦(ベスト32)で伏兵に屈した。
残る谷内は順当に駒を進めベスト4で王者山田と激突することになる。勝てば年間3位、負ければ5位。「4強」を倒すことへの拘りはなかったが、「ここまで来たら3位を取って面白くしたろ」という気持ちは強かった。なにより、王者山田を倒したい。年間を通じて取り組んできた、ここ一番の勝負強さの真価を試される闘いとなった。
2013 PERFECT【最終戦 千葉】
準決勝 第1レグ「501」
谷内 太郎(先攻) | 山田 勇樹(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
S20 | S20 | T20 | 401 | 1R | T20 | S20 | T20 | 361 |
T20 | T20 | T20 | 221 | 2R | T20 | S20 | T20 | 221 |
S20 | T20 | T20 | 81 | 3R | T20 | T20 | T20 | 41 |
S19 | T12 | S13 | 13 | 4R | S5 | D18 | – | WIN |
準決勝第1レグは谷内先攻の501。第1Rで100Pしか削れず、140Pの山田に後れを取った谷内は、続く第2Rで140Pを削り同点に追いついた。
第3Rで谷内は再び140Pを削りto go 81。後攻めの山田はton80でto go 41としたが、先攻の谷内が圧倒的に有利な展開となった。
迎えた第4R。T19のアレンジにいった谷内の1投目はシングル。2投目はT12をきっちりと決めアレンジに成功し、残り26P。
が、3投目。レグショットとなるD13に向けて放ったダーツはターゲットの1ビット内側に入り万事休す。後攻の山田にブレイクを許した。
第1レグを振り返って谷内は言う。「純粋に、勝負弱さが出たんじゃないですかね」
3投目に向かうとき、1レグ目を山田に渡したくない、という気持ちが強かった。これまでの敗戦を想い、キープして落ち着きたいという弱気がでた。無心ではなかった。
3投目を投げた瞬間、「入ってくれ」と願った。が、願いは届かなかった。そこを谷内は「勝負弱さがでた」と振り返っている。
長身のアタッカー
――ダーツプレイヤーになっていなかったら、何をしていましたか?
谷内太郎は、S-DARTSのホームページに掲載されているインタビューに、「レストランバーの店長」になっていたと思う、と答えている。
メンズクラブのモデルのキャリアを持つ谷内はどのような曲折を経て、ダーツプレイヤーになったのか。
谷内は1975年11月、石川県能登地方の生まれ。実家は商家で2人の姉に可愛がられて育った「普通の大人しい子」だった。
父親の方針で小学校に入学した頃から中学2年生ごろまで、毎日朝と夕方に書道塾に通った。中学の部活は書道と両立できる卓球。高校に入学すると、「中学3年と高校1年で10センチずつ伸びた」という長身をかわれ、バレーボール部で汗を流した。
長身から打ち込むスパイクが大学関係者の目に留まり、スポーツ推薦で近畿大学に進学した。当時の近大はバレーボールの強豪。レギュラーには定着できなかったが、バレーに明け暮れた4年間が谷内のスポーツ選手としての基礎を作った。
メンクラのモデル
大学卒業後、バレー部の同期のほとんどがVリーグや実業団のチームに就職する中、谷内は東京のモデル事務所の門をたたいた。周囲に勧められて「その気になった」のがきっかけだった。
モデル事務所に就職、といっても基本給がある訳ではなく、給料は歩合制。「とりあえず3年はやってみよう」。そう決意して、ホテルの配膳のアルバイトをしながらチャンスを待った。1年目は雑誌と広告の仕事が2本あっただけで、年収は8万円しかなかった。
が、2年目以降は順調に仕事が増えた。メンズクラブやゲイナーなどメジャーのファッション誌から定期的に声がかかるようになった。ショーや広告の仕事も入るようになった。
アルバイトは朝が早かったホテルの配膳係からレストランバーに。仕事やオーディションが入ったら休ませてもらえる待遇も得た。広々としたレストランで、ビリヤード台が置いてあった。
数年が過ぎた。モデルはいつまでも続けられる仕事ではない。モデル仲間は次のステップアップを夢見て、ドラマや映画、コマーシャルフィルムのオーディションを受けていた。谷内も何度か挑戦してみたが、もともと人前でしゃべるのは苦手で演技にはまったく自信はない。自分に俳優は無理。モデルとレストランの仕事をしながら、次のことを考えなければならない時期に差し掛かっていた。
そんな日々を過ごしていたある日、アルバイト先のレストランバーに、ソフトダーツのマシーンが入った。同僚と一緒に遊んでみた。「なかなか面白いね」。モデルの仕事を始めて4年目の秋。26歳のときだった。
それが、レストランバーの店長になろうかと考え始めていた自分の人生を変える出会いになるとは、知らなかった。
(つづく)
- 【特別編】2016 年間チャンピオン - インタビュー
- 髙木静加 ニューヒロイン誕生!
- 浅田斉吾 自分を見ることができるようになった
- 【Leg16】髙木静加 もう逃げない ―― 遅れてきた天才の決意
- 髙木静加(4)無限の伸び代
- 髙木静加(3)亀の歩み
- 髙木静加(2)逃げた
- 髙木静加(1)大城明香利の予言
- 【Leg15】大内麻由美 覚醒したハードの女王
- 大内麻由美(6)世界の頂を見据え、二兎を追う
- 大内麻由美(5)「理論派」の決意
- 大内麻由美(4)名前が売れた
- 大内麻由美(3)最初から上手かった
- 大内麻由美(2)父の背中
- 大内麻由美(1)「引退はしません。後は、年間総合優勝しかありません」
- 【特別編】2015 年間チャンピオン - インタビュー
- 大城明香利 初の3冠に輝いたPERFECTの至宝
- 浅田斉吾 年間11勝 ―― 歴史を変えた“ロボ”
- 【Leg14】知野真澄 みんなの知野君が王者になった。
- 知野真澄(6)「ちゃんと喜んでおけばよかったかな」
- 知野真澄(5)「絶対に消えない」
- 知野真澄(4)10代の「プロ」
- 知野真澄(3)「高校生なのに、上手いね」
- 知野真澄(2)お坊ちゃん
- 知野真澄(1)3冠王者誕生
- 【Leg13】今野明穂 うちなーになった風来女子、その男前ダーツ人生
- 今野明穂(6)お帰り
- 今野明穂(5)プロの自覚
- 今野明穂(4)どん底
- 今野明穂(3)ニンジン
- 今野明穂(2)沖縄に住みたい
- 今野明穂(1)今野 Who?
- 【Leg12】山田勇樹 PRIDE - そして王者は還る
- 山田勇樹(6)がんからのプレゼント
- 山田勇樹(5)…かもしれなかった
- 山田勇樹(4)決断と実行
- 山田勇樹(3)強運伝説
- 山田勇樹(2)「胃がんです」
- 山田勇樹(1)順風満帆
- 【Leg11】一宮弘人 この手に、全き矢術を
- 一宮弘人(5)ダーツを芸術に
- 一宮弘人(4)負けて泣く
- 一宮弘人(3)ダーツに賭けた破天荒人生
- 一宮弘人(2)「自由奔放に生きてやる」
- 一宮弘人(1)「いずれは年間王者になれると信じています」
- 【Leg10】門川美穂 不死鳥になる。
- 門川美穂(6)復活の時を信じて
- 門川美穂(5)帰って来た美穂
- 門川美穂(4)死の淵からの帰還
- 門川美穂(3)3.11――死線を彷徨った
- 門川美穂(2)PERFECTの新星
- 門川美穂(1)鴛鴦夫婦
- 【Leg9】大城明香利 沖縄から。- via PERFECT to the Top of the World
- 大城明香利(4)「5年後に世界を獲れたら面白いですね」
- 大城明香利(3)「ダーツにだったら自分のすべてを注げる」
- 大城明香利(2)勧学院の雀
- 大城明香利(1)決勝に進むのが怖くなった
- 【Leg8】谷内太郎 - The Long and Winding Road ― 這い上がるダンディ
- 谷内太郎(4)失われた4年。そして
- 谷内太郎(3)「竹山と闘いたい」
- 谷内太郎(2)「レストランバーの店長になっていた」
- 谷内太郎(1)「長かった」
- 【Leg7】樋口雄也 - 翼を広げたアヒルの子
- 樋口雄也(4)「ダーツは自分の一部です」
- 樋口雄也(3)テキーラが飛んでくる
- 樋口雄也(2)理論家の真骨頂
- 樋口雄也(1)悲願の初優勝
- 【Leg6】浅田斉吾 - 「浅田斉吾」という生き方
- 浅田斉吾(6)家族――妻と子
- 浅田斉吾(5)兄と弟
- 浅田斉吾(4)両刃の剣
- 浅田斉吾(3)「ラグビー選手のままダーツを持っちゃった感じです」
- 浅田斉吾(2)「最速は、僕です」
- 浅田斉吾(1)「今季の目標は圧勝です」
- 【Leg5】今瀧舞 - 熱く、激しく、狂おしく ~ダーツに恋した女
- 今瀧舞(6)「現役を引退しても、ずっとダーツと関わっていたいと思います」
- 今瀧舞(5)「ダーツがやりたくて、離婚してもらいました」
- 今瀧舞(4)涙の訳
- 今瀧舞(3)「神様は超えられる試練しか与えない」
- 今瀧舞(2)「観客席の空気を変えるダーツがしたい」
- 今瀧舞(1)「ダーツを始めてから、テレビはほとんど見ていません」
- 【Leg4】前嶋志郎 - ダーツバカ一代
- 前嶋志郎(3)「ダーツ3本持ったら、そんなこと関係ないやないか」
- 前嶋志郎(2)「ナックルさんと出会って、人のために何かがしたい、と思うようになりました」
- 前嶋志郎(1)「ダーツ界の溶接工」
- 【Leg3】浅野眞弥・ゆかり - D to P 受け継がれたフロンティアの血脈
- 浅野眞弥・ゆかり(4)生きる伝説
- 浅野眞弥・ゆかり(3)女子ダーツのトップランナー
- 浅野眞弥・ゆかり(2)「D-CROWN」を造った男
- 浅野眞弥・ゆかり(1)「PERFECTで優勝するのは、簡単ではないと感じました」
- 【Leg2】山本信博 - 職業 ダーツプレイヤー ~求道者の挑戦~
- 山本信博(6)「結局、練習しかないと思っているんです」
- 山本信博(5)「1勝もできなければ、プロは辞める」
- 山本信博(4)「ダーツはトップが近い、と思ったんです」
- 山本信博(3)「ぼくだけだと思うんですけど、劇的に上手くなったんですよ」
- 山本信博(2)「余計なことをあれこれ考えているときが、調子がいいんです」
- 山本信博(1)「プレッシャーはない。不振の原因は練習不足」
- 【Leg1】小野恵太 - 皇帝の背中を追う天才。
- 小野恵太(4)「星野さんを超えた? まったく、足元にも及びません」
- 小野恵太(3)「プロなんて考えたことありませんでした。運がよかったんです」
- 小野恵太(2)「こんなに悔しい思いをするんなら、もっと上手くなりたいと思ったんです」
- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。