COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg8 谷内太郎(4)
失われた4年。そして
PERFECTが産声をあげた2007年、谷内太郎は日本ダーツ界のトッププレイヤーの一人だった。ハードでは05年にWDFワールドカップ日本代表に初選出され、07年にも連続で世界と戦っている。
ドラスティックな変貌を遂げたダーツ界
PERFECTは日本初のダーツのプロツアー。07年当時は他にプロの団体はなく、トッププレイヤーの大半が、それまでになかったビッグ・マネーと、ソフトダーツ日本一の称号を求めて、こぞって参戦した。
谷内も、もちろん、参戦したかった。しかし、できなかった。谷内はその理由を語らないが、所属していた会社の意向が働いていたと推察される。
プロツアーの登場で、ソフトダーツの世界はドラスティックな変貌を遂げた。それまでには、他のプロスポーツのように年間を通してトッププロが勢揃いして闘い、覇を競う環境が日本にはなかった。加えて、男子なら優勝賞金100万円前後の大会が年間20試合近く開かれ、年間総合ランクの上位入賞者にはボーナスが与えられる。さらに、トッププロに広告塔の価値を認めるバレルメーカーなどの企業は、スポンサーとなって選手を支援し始めた。それまで、好きだから自腹を切って大会に参加していたダーツが、職業として成り立つ可能性が広がり、夢が膨らんだ。
ある者は夢を追い、別の人は富を、あるいは名声を求め、真剣勝負する場が画期的に増えたことで、切磋琢磨する選手たちのレベルは飛躍的に向上した。そうした中で、山田勇樹、浅田斉吾、小野恵太、山本信博ら有望な選手が次々と現れた。
取り残された谷内
その流れに谷内は、一人取り残された。
失われた4年。その月日に、谷内はあまりにも大きな代償を支払わされることになる。
2011年、4年遅れで参戦したPERFECTで谷内は衝撃を受ける。レベルが違う。ほんの数年前まで互角以上に闘っていた選手たちが、目の前で別次元のレベルのダーツを投げていた。
終わってみれば年間総合ランク19位。ダーツでは挫折を知らなかった谷内が初めて味わう屈辱だった。
谷内の戦いぶりを間近で見ていたプロダーツプレイヤーの門川豪志は言う。「太郎さんは悪いダーツをしていた訳じゃありません。みんなが、『太郎さんすげえ』っていうようなダーツをしていたんです。でも、突然、入らなくなってしまう。そういう場面を何度も見ました」
技術は折り紙つき。だが、場馴れした他のプレイヤーたちを前に、緊迫した場面で平常心を失ってしまう。失われた4年が、谷内に試練を与えていた。
前代未聞の椿事
PERFECT2013年シーズン最終戦準決勝、谷内対山田。1レグオールで迎えた第3レグに、前代未聞の椿事が起きた。
第3レグのクリケットは谷内の先攻。が、あろうことか、後攻の山田が先にゲームを始めてしまう。観客のざわめきをよそに、審判も谷内もそれに気づかない。2013年当時のPERFECTのルールでは、山田が1本放った時点でゲームは成立。谷内は有利な先攻を失った。
第3レグは第4Rを終わって、両者陣地はなく山田138対谷内133の接戦。“先攻”の山田が第5Rに9マークで16、15を獲得して、16をプッシュし大勢は決した。勝負事に「たられば」は虚しいが、谷内が先攻であれば、結果は違っていたかもしれない。
レグカウント1-2で後のなくなった谷内は、後攻で第4レグの501を迎える。が、山田は先攻を譲り、谷内もそれを受け入れた。ルールにより両者に警告が与えられた。
2013 PERFECT【最終戦 千葉】
準決勝 第4レグ「501」
谷内 太郎(先攻) | 山田 勇樹(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
T20 | S20 | T20 | 361 | 1R | T20 | S20 | T20 | 361 |
S20 | S20 | S20 | 301 | 2R | T20 | T20 | S20 | 221 |
S20 | T20 | S20 | 201 | 3R | S20 | S20 | S5 | 176 |
S20 | S20 | S5 | 156 | 4R | S20 | T20 | T20 | 36 |
T20 | T20 | OB | – | 5R | OB | OB | D18 | 0 WIN |
第1Rは両者100Pずつを削ってスタート。第2R、先攻の谷内は60Pで、山田は140P。シュート力に勝る山田にリードを許し、苦しい滑り出しとなった。
第3R。谷内はシングル2本の100P。山田は崩れて45P。両者とも上がり目を残せず、差は縮まった。
第4R。今度は谷内は崩れて45P。山田は140Pを削る。残りは谷内156P、山田36P。差は開いたが、先攻の谷内にチャンスが残った。
迎えた第5R。谷内は1投目、2投目をトリプル20に捻じ込み、底力を発揮し見せ場を作る。残り36P。しかし、3投目はD18のワンビット上に外れアウトボード。谷内の年間総合3位取りの挑戦は終わった。
第4レグ第5Rを振り返った谷内は、再び、「弱さ」を口にした。
「1本目がT20に入った時点で、いけると思いました。2本目も同じ感覚で入って、この流れでここまで入るんだったら、(D18も)外れることはないだろうなと。3投目を放った瞬間も、そんなにずれてはないと思ったのですが、弱さですね。弱さが出ました。1レグもそうだったんですが、あそこで決められていたら、メンタルな部分で自信に繋がって、第4レグも入っていたんだと、思うんです。やはり、そこが課題です」
2014年シーズンの開幕後、谷内がオーナーのダーツバー「Taro’s LOUNGE」でお会いした谷内は、予想に反して終始、穏やかで明るかった。年間3位と4強の座をあと一歩のところで逃した昨シーズンを振り返った時も、順調な滑り出しとは言えない14年シーズンについて語る時も、谷内は厳しさや激しさのかけらも見せなかった。小野恵太を取材したときに感じたギラギラとした闘志も、浅田斉吾の勝負への執着も、谷内からは感じられなかった。
生き馬の目を抜くような勝負の世界で生きる人とは思えない、人柄が滲み出た、拍子抜けするほどの明るさと穏やかさだった。
来年不惑を迎える谷内は、自分はこれからだ、と言った。
「自分は、ラッキーもあって、本当の実力を身につける前に名前が出てしまいました。だから、他の選手のように苦しみを知らなかったのだと思います。PERFECTに来て、苦しみを知りました。悔しい思いもしました。けれど、そこから上に這い上がる、その過程で本当の実力、技術だけではなく、勝負強さだとか、メンタルな力を培うことができると思うんです」
開幕前、契約するバレルメーカーのサイトで、今季の目標を年間王者と公言した。その言葉には、4年の苦節を経てどん底から這い上がってきた、谷内の自信と矜持が滲み出ていた。闘志は裡に秘めている。
(終わり)
昨年度、初の全戦参戦で年間クイーンの座を射止めた大城選手は沖縄の出身。
その胸の内には、妖精のような可憐な容貌からは想像もつかない、自信と大志が漲っ ています。
沖縄からPERFECTの絶対女王、そして世界の頂点を目指す大城選手の強さのルーツに 迫ります。
「沖縄から。― via PERFECT to the Top of the World」
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- 山本信博(5)「1勝もできなければ、プロは辞める」
- 山本信博(4)「ダーツはトップが近い、と思ったんです」
- 山本信博(3)「ぼくだけだと思うんですけど、劇的に上手くなったんですよ」
- 山本信博(2)「余計なことをあれこれ考えているときが、調子がいいんです」
- 山本信博(1)「プレッシャーはない。不振の原因は練習不足」
- 【Leg1】小野恵太 - 皇帝の背中を追う天才。
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- 小野恵太(3)「プロなんて考えたことありませんでした。運がよかったんです」
- 小野恵太(2)「こんなに悔しい思いをするんなら、もっと上手くなりたいと思ったんです」
- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。