COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2015年9月28日 更新(連載第66回)
Leg14
新たなる修羅の地で彷徨えし貴公子 復活を賭けた「精密機械」 その魂の咆哮
知野真澄

Leg14 知野真澄(2)
お坊ちゃん

前年、史上初の3冠王者となった知野真澄が連覇を果たすのか。12、13年シーズンを連覇した山田勇樹が王座を奪還するのか。それとも、2年連続総合2位の浅田斉吾が悲願の初制覇を果たすのか――。近年希に見る大混戦が予想される中、2015年シーズンのPERFECT は、2月の横浜で開幕戦を迎えた。

開幕優勝

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自らを「スロー・スターター」と評する知野だが、今年の開幕は違った。決勝トーナメントを順調に勝ち上がり、初戦でいきなり決勝の舞台に立つ。対するは、前王者の山田勇樹。前季は闘病のため一時離脱したものの、涙の復活。今季は王者奪還に向け、目の色が違う。フルシーズンを戦ったらどちらが強いのか――。ファン必見の看板マッチが、開幕決勝で、早々に実現した。

第1セットは山田の先攻。ファーストレグの第1Rで山田がTON80を見舞うと、知野もTON80を返し、会場がどよめく。第1レグは11ダーツの知野がブレイク。第2レグは、第3、第4Rで連続9マークの山田がブレイクバックする。第3レグは、後攻の知野が第4Rの3投目、残り40Pのブレイクショットをミスし、山田がキープ。ブレイク合戦となりかけたセットを先攻の山田が土俵際で堅守した。

第2セットの第1レグは知野が手堅くキープ。第2レグは、第1レグで先攻の山田が痛恨の3本連続ミス。中盤で挽回したものの、終盤にミスがでて知野が戦況を再逆転。11Rの長丁場を知野がブレイクで制した。セットカウント1-1。開幕の決勝はフルセットマッチに縺れ込んだ。

第3セット。第1、第2レグのクリケットは、いずれも5Rで互いにキープし、決戦はフルセットフルレグに雪崩込む。そして、最終第3レグは、観客に鳥肌を立たせるような壮絶な打ち合いとなった。

ZOOM UP LEG

2015 PERFECT【開幕戦 横浜】
決勝戦 第3セット 第3レグ「クリケット」

知野 真澄(先攻)   山田 勇樹(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
20 T20 20 40 1R 19 19 19 0
T19 T17 T20 100 2R T18 T18 T18 108
20 T18 16 120 3R T16 T16 T16 204
20 T20 20 220 4R T16 T20 17 252
T17 T16 T17 322 5R T15 T15 15 312
15 T15 T17 322 6R IBL IBL IBL 387
17 17 T17 458 7R × × OBL 412
IBL IBL 458
WIN
8R
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル

知野の先攻の最終レグは、知野5マーク、山田3マークでスタートする。隙につけ入りたい知野は、第2Rで目の覚めるようなホワイトホースを決める。「先閉め」のカット、オープン、プッシュの順で、苛烈な攻めを見せ、獲得陣地は20と17の2つになった。が、山田も指を銜えてはいない。18のスリー・イン・ナ・ベットで反撃し、陣地は1つだが、ポイントでリードした。

第3R。知野は1投目のS20でポイントオーバーすると、2投目のT18で山田陣の18をカット。16をオープンにいった3投目はシングルとなり7マーク。差を詰めたい山田は、驚異の集中力を発揮し2R連続のベット。陣地は1つ少ないが、84ポイントのリードで、戦況互角の痺れる展開となる。

第4R。知野はポイントオーバーしたものの、加点のみの5マーク。後攻の不利を逆転するチャンスを得た山田は、1投目のT16でポイントを再々逆転すると、2投目の一撃で知野陣20をカット。3投目は勢いに乗って17のカットにいくがシングルに。3連続9マークとはならず、陣地で並び、ポイントも拮抗。息を呑む戦況が続いた。

第5R。知野は1投目のT17でポイントオーバー。2投目の一本で山田陣16をカット。さらに3投目はT17でプッシュ。勝負所で9マークを打った。普段の知野のなら、3投目はオープンに行くところだったが、戦術を変えた。「自分も好調だが、相手も絶好調。勝負の山は必ずもう一度巡って来る」と読んで、リスクを減らす戦術を選んだ。「折れるまで打ち合ってやろう」という気持ちだった。山田も追撃の手を緩めず、15の7マークで20ポイント差に詰め寄る。陣地は1つずつ。が、ゲームは終盤に入り、後攻不利の重圧が山田に圧し掛かる。

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終盤の第6R。知野は2投で山田陣15をカット。3投目のT17で51ポイントを加点し、勝負ありと見えた。が、正念場で山田が驚異の粘りを見せる。インナー・ブル3発でポイントオーバー。大歓声に包まれた会場に、異様な雰囲気が漂い始めた。

知野の読み通り、最終局面は打ち合いに雪崩込んだ。第7R。一気に勝負を決めたい知野の1投目はS17。ポイントはオーバーしたが、残り2投でブルをカットできなければ、局面は大きく変わる。知野は冷静にプッシュを選択したが、1本はシングルとなり、ポイント差は71。知野優勢ながら、局面は緊迫した。

ワンチャンスを得た山田は、2本でポイントオーバーし、3本目に知野陣17をカットできれば勝利。が、1投目は2ビット下に。間髪を入れずに放った2投目は大きく上に逸れた。山田はスローラインから2歩下がってボードを見つめ、首を傾げた。勝負が決した瞬間だった。

打倒知野に目の色を変えた猛者たち

「年間王者として、恥ずかしくない試合を」――。15年シーズン開幕前、そう心に誓った知野は、開幕戦で山田との激闘を制して優勝。今季もまた知野が走るのか?関係者の多くにそう予想させた開幕戦だったが、PERFECTはそう甘くはない。

第2戦は山田が勝ち、第3、4戦は浅田が連勝。第5戦は、前季10位ながら進境著しい西哲平が4年ぶりの美酒に酔う。が、混戦はここまで。首位に立つ浅田が、第6戦から3連勝を果たすと、第9戦の山田を挟み、第10戦から再び3連勝し、独走態勢に入っている。

知野は9月12日現在、浅田、山田に次いでポイントランキング3位。トップを走る浅田には決勝で3度、準決勝で1度苦杯を喫し、今季4連敗で勝ち星無し。山田とは1勝2敗。直接対決の差が、年間王者レースのポイント差に直結している。つまり、PERFECT生え抜きの実力者が、打倒知野に目の色を変えた、ということだ。

残り5戦。連覇で知野時代の到来を目指した3冠王者は、土俵際まで追い込まれている。

「ピアノの上手い転校生」

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真夏の昼下がり。都電が走る東京の下町、荒川区の西尾久にある「Cafe Bamboo」で、知野と会った。バーカウンターに4、5席。テーブルが2つ。隅にソフトダーツのマシーンが一台ある。知野が高校生だったころ開業した、叔母が切り盛りするこの小さなカフェには、ダーツを始めた頃の思い出が溢れている。この店がなければ、今の知野はいない。

知野真澄は1987年の秋、この町で生を受けた。父母ともに公務員で、知野は一人っ子。母方の祖父母と同居の5人家族で、大切に育てられた。

子供の頃はどんな子でしたか――。訊ねると、「今のイメージからは想像がつかないと思いますけど、やんちゃでした」と言って、笑みを見せた。

「みんなの知野君」が、今のイメージとはほど遠い「やんちゃ」、と聞いて、少し驚いた。が、よく聞くと、眉を剃って喧嘩や軽犯罪に明け暮れていた、という意味ではなかった。鬼ごっこやいたずらをして、この辺りを走り回っていた、活発で明るい子供だった。

ばかりか、イメージ通りの、筋金入りの「お坊ちゃん」でもあった。学齢前からバレエとピアノを習い、ピアノは高校を卒業するまで続けた。小学校に入ると、テレビや舞台の子役を育成する劇団「東俳」に所属し、5年生の時には、NHK教育番組のドラマ『虹色定期便』に、小田切朋彦役でレギュラー出演した。ピアノを習っている転校生という設定だ。今もネット上で、当時の可憐な知野君の演技を見ることが出来る。

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小学校を卒業すると、中高一貫の私学に進学。硬式テニス部に入ったが、それほど熱心に打ち込んだ訳でもなく、勉強もそこそこ。凝り性でゲームが好き。中学・高校時代は「どこにでもいるような」学生だった。

普通の学生だった知野を、普通とは違う人生に誘ったのは、もちろん、ダーツ。出会いは早く、高校2年、17歳の夏休みのことだった。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。