COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg14 知野真澄(3)
「高校生なのに、上手いね」
ソフトダーツプロトーナメント「PERFECT」は、全国各地を転戦し、年間20試合前後を戦う。プロテストに合格し、選手登録するプレイヤーは男女合わせて1300人を超えるが、ツアーの全戦に参加しているのは男子で100人、女子で40人前後である。2007年の開幕から今年で9年目。歴史の積み重ねも加わり、選手相互の関係は濃く、絆は強い。
例えば、知野真澄と小野恵太は、学生時代に同じダーツバーでアルバイトをしていた頃からのライバルであり友人でもある。関西を拠点とする浅田斉吾と山本信博は、同じトリニダートのユニフォームを着て、ツアーの移動は行動を共にし、よく一緒に練習している。選手相互には、師弟関係もあれば、家族ぐるみで付き合う親友があり、同じ故郷で育ち、切磋琢磨しあってきた仲間がいる。
つまり、彼ら彼女らは、賞金と名誉とプライドをかけて戦うライバルであると同時に、同じ船に乗った同志でもある。関係が深くなればなるほど、互いの事情に通じ、誰がどのような想いで、戦いの舞台に立っているのかを知り尽くすことになる。彼の、彼女の想いを、夢を、願いを、親友であり同志である者が打ち砕くときもある。勝負の世界の習いとは言え、残酷である。時には、戦いたくない場面もあろう。
K-PONさん
知野真澄が3冠王者となった2014年シーズンの第15戦横浜大会の決勝は、知野にとって、そのような戦いだった。自身初、PERFECTタイ記録となる3連覇がかかった試合で、勝てば年間王者をほぼ掌中に収めることが出来る。が、その対戦相手は佐藤敬治だった。
当時、54歳の佐藤は父親と同世代の大先輩。ダーツを始めたばかりの高校時代、技術や戦術のイロハを教わった「先生」でもあった。D-CROWNで同じ釜の飯を食べ、同時期にPERFECTに移籍してきた。仲間意識も強い。13年第19戦のベスト4がPERFECTでの最高成績で、決勝進出は初めて。この日は、準々決勝で王者・山田勇樹との死闘を制して勝ち上がり、千載一遇のチャンスを得た。初優勝が佐藤の悲願であることは、知野が誰よりも知っていた。
「先輩にはかなわない」
決勝は、ベテラン佐藤の初優勝を後押しする大応援団が観客席前列を陣取る中で始まった。第1セット第1レグで先攻の佐藤がTON80を打った瞬間、会場に大歓声がこだまし、万雷の拍手が湧く。自他ともに認める人気No.1プレイヤーの「みんなの知野君」が、経験したことのない「アウェー」の雰囲気に包まれた。
第1セットは、佐藤が11ダーツでキープ。レグショットがダブル12に吸い込まれた瞬間、会場はどよめいた。しかし、知野は第2レグをキープ、第3レグをブレイクし、先攻のセットを失った佐藤は、土俵際に追い込まれた。
が、1セットビハインドで迎えた第2セット第1レグで、ベテランが見せ場をつくる。
2014 PERFECT【第15戦 横浜】
決勝戦 第2セット 第1レグ「501」
知野 真澄(先攻) | 佐藤 敬治(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
20 | 19 | 19 | 443 | 1R | T20 | 20 | 20 | 401 |
20 | T19 | T19 | 309 | 2R | 20 | T20 | 20 | 301 |
T20 | 20 | 7 | 222 | 3R | T20 | T1 | 19 | 219 |
18 | 5 | 20 | 179 | 4R | 5 | T20 | T20 | 94 |
20 | 20 | 19 | 120 | 5R | T18 | D20 | – | 0 WIN |
佐藤の大応援団に気圧された訳ではなかろうが、知野のダーツが精度を欠く。第1Rは1投目をシングルゾーンに外すと、2投目は下の19にターゲットを変えたがやはりシングルD。3投目もシングル19で、58のスタート。佐藤はTONで、後攻の不利を半歩詰めた。
第2R。知野の1投目はまたもシングル。再びターゲットを19に移し、トリプルを2本沈める。ついていきたい佐藤はシングル2本とトリプルで、貯金を失くした。第3Rも両者精度を欠き、知野87、佐藤82で局面は変わらない。残りが少なくなり、戦況は先攻の知野に傾いていく。
TO GO 222で迎えた第4Rに、知野が、らしくないダーツを打つ。1投目は大きく右に逸れてシングル18。2投目も修正がきかずシングル5。3投目は20ゾーンに戻したがシングル。43ポイントのロースコアで残り179。上がり目を残せず、佐藤にブレイクのチャンスを与えた。
勝負を決めたい佐藤の1本目はシングル5に。が、2,3本目はトリプル20に捩じ込み、TO GO 94。ブレイクを手元まで引き寄せた。
第5R。集中力を欠いた知野はシングル20の2本と、シングル19。残り120にして佐藤の失投を待った。が、目の色を変えた佐藤が集中力を発揮。一投目はトリプル18へ、レグショットはダブル20に美しくダーツを放ち、知野からブレイクを毟り取った。
決勝の第2セットは、第2レグのクリケットで知野が復活。第1R、第2Rで連続9マークを打ち、ブレイクバック。第3レグもキープして、それまで、皇帝・星野光正と、王者・山田勇樹しか達成したことのなかった3連覇を果たした。
が、試合後の知野にいつもの笑顔はなかった。
「悔しいけど、嬉しいけど、悔しい、いや、嬉しいです。こんなにやられるとは思っていなかったので、やっぱり先輩にはかなわないです」
佐藤の健闘を、との独特の言葉で称えた後、こう付け加えた。
「途中、途中でひーひー、言っていました。僕の方は、内心複雑。昔に戻ったような気がしました」
トッププレイヤーを間近に
知野が初めてダーツを投げたのは、高校2年生の夏休みだった。2004年のことだ。叔母に連れられて行ったお店にソフトダーツのマシーンがあった。翌年の1月、叔母がCafe Bambooを開業し、店の片隅にダーツマシーンを置いた。知野は放課後や休日に店を訪ねては、ダーツを投げるようになった。
凝り性の知野は、マシーンに残る履歴の記録を更新することに夢中になる。目標はカウントアップで1000点越えへと高まり、もっとうまくなりたくて、ダーツのDVDを見た。安食 賢一、谷内太郎、佐藤敬治らが戦う「burn.」のDVDだった。嵌った。DVDを教科書代わりに、毎日10時間以上は投げた。叔母の店だけでは飽き足らず、自室にもハードのボードを掛けて、夜中も投げた。
板橋で浅野眞弥・ゆかり夫妻が切り盛りするダーツバー「Palms」にも通うようになった。そこで、何人ものトッププレイヤーと出会った。谷内太郎、浅野ゆかり…。佐藤敬治と最初に出会ったのも、その頃だ。
「高校生なのに、すごく上手いね」。DVDで見たスタープレイヤー達に褒められて、有頂天になった。ダーツ熱に拍車がかかった。高校3年生。推薦で東京電機大学への入学が決まると、ブレーキがなくなる。知野の生活はダーツ一色に染められていった。
(つづく)
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- 樋口雄也(1)悲願の初優勝
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- 浅田斉吾(2)「最速は、僕です」
- 浅田斉吾(1)「今季の目標は圧勝です」
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- 山本信博(3)「ぼくだけだと思うんですけど、劇的に上手くなったんですよ」
- 山本信博(2)「余計なことをあれこれ考えているときが、調子がいいんです」
- 山本信博(1)「プレッシャーはない。不振の原因は練習不足」
- 【Leg1】小野恵太 - 皇帝の背中を追う天才。
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- 小野恵太(3)「プロなんて考えたことありませんでした。運がよかったんです」
- 小野恵太(2)「こんなに悔しい思いをするんなら、もっと上手くなりたいと思ったんです」
- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。