COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2016年4月13日 更新(連載第76回)
Leg15
世界という称号とプロとしての矜持 二兎を追う港町の女王 その航海の軌跡
知野真澄

Leg15 大内麻由美(4)
名前が売れた

PERFECT2016シーズン第4戦は4月9日、千葉の幕張メッセで開催され、男子は昨年年間王者の浅田斉吾が連勝、女子も昨年女王の大城明香利が今季初優勝を遂げた。まだ4戦を終えたばかりだが、男子は浅田斉吾が頭一つリードするも混戦模様。知野が出遅れているのが気になる。

男子以上の混戦を繰り広げる女子でトップを行くのは大内麻由美だ。ただ一人、4戦連続でベスト4入りし、優勝と準優勝が1度ずつで、混戦をリードする。大内がこのまま一人旅に入るのか、出遅れた大城はどこから巻き返しを見せるのか、2戦連続で予選落ちの今野明穂の復調はいつか、興味は尽きない。

体のメンテナンス

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2014年シーズン。第11戦で念願の初優勝を手にして自信を取り戻した大内は、それまで苦戦してきたのが嘘のように安定した力を発揮し始める。続く第12戦岡山で3位、第13戦札幌、第14戦静岡で連続準優勝。この間、敗れたのは松本恵、今野明穂、大城明香利のビッグネームばかり。決勝トーナメント序盤で下位の選手相手に取りこぼし、ため息を漏らす大内の姿はなくなった。

覚醒の要因はどこにあったのか。ハードの第一人者として、D-CROWNの最後の女王として、優勝を義務付けられてPERFECTに参戦しながら、なかなか勝てなかった。初優勝でその重圧から解放されたのが大きな要因であったことは想像に難くない。

が、それだけではなかったと、大内は言う。実力も上がっていた、と。2014年の後半、レーティングは以前より2ポイントほど上がっていた。「実力を上げていけるように考えながら練習してきた」ことが数字に現れ、自信がついた。好不調の波が少なくなり、安定したダーツが打てるようになっていた。

まだ、ある。体のメンテナンスを始めたことだ。試合の前に、鍼灸院と整体に通い「体の歪」を直してもらう。歪がなくなると、力を入れなくても真っ直ぐに立てることや、肩や肘の関節の可動域が大きくなり、力を入れなくても柔らかく動くことに気付いた。スローラインに立って構えたとき、違和感がなくなり、ダーツはターゲットに向かって真っすぐに飛んでいく。発見だった。今では、試合前には必ずメンテナンスを怠らない。2014年シーズン後半から、安定したダーツが打てるようになった秘密の一つは、そこにあった。

独走は許さない

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2015年シーズンに入っても、好調は持続した。第5戦で準優勝すると、第6戦も2戦連続で決勝に残った。対するは大城。前季2014シーズン、ほぼ手中に収めかけていた年間総合連覇を最終戦で逃し、女王奪還に燃えていた。

この年、14年季に女王に返り咲いた松本恵が結婚を機に第一線から退いた。と言っても、引退した訳ではないが、結婚生活を優先するため、スポット参戦となる。女王が抜けた穴を埋めるため、大内への期待は高まった。松本なき後、大城を倒せるとしたら、今野か大内しかいない。大城に独走を許さないためにも、負けられない試合だった。

決勝の第1レグは大城の先攻で始まる。両者先攻レグをキープし、レグカウント1-1で迎えた第3レグにゲームが動く。

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2015 PERFECT【第6戦 仙台】
決勝戦 第3レグ「クリケット」

大城 明香利(先攻)   大内 麻由美(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 20 T20 80 1R 19 × 19 0
19 19 19 80 2R T18 T18 T18 108
T20 T18 20 160 3R 17 T17 × 125
17 × 20 180 4R T17 17 T17 244
× T20 20 260 5R 17 17 T17 329
T20 20 D17 340 6R T16 × T16 377
× T20 × 400 7R × T16 T16 473
20 T20 20 500 8R T16 × 16 537
× 20 20 540 9R 16 16 T16 617
T20 T20 × 660 10R T16 × T16 713
T20 16 20 740 11R 16 T16 T16 825
20 T20 × 820 12R 20 16 × 841
× T20 20 900 13R × T16 16 905
T20 T20 × 1020 14R × T16 T16 1001
20 × × 1040 15R T15 T15 × 1046
WIN
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル
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第1R。先攻の大城は7マークの好スタート。一方の大内は2マークで、出だしで躓いたかに見えた。が、第2Rで大内が押し戻す。シングル3本で19をオープンした大城に対し、大内は18のベット。獲得陣地では後れを取ったが、ポイントはオーバー。このラウンドがゲームの流れを決める綾となる。

第3Rは大城7マークに大内4マーク。大城は大内の18をカットし、大内は17を獲得。第4Rの一投目に大城がカットに失敗すると、その後は第5Rまで、大城20と大内17の打ち合い。大内は、陣地は一つながらポイントリードを保つ。

第6R。2投でポイントオーバーの大城は3投目に大内の17をカット。大内は一投目にトリプルで16をオープンし、3投目のトリプルで再々逆転。第7R以降は、壮絶な打ち合いに雪崩込んだ。

打ち合いの展開では、20と19を保持する大城が圧倒的に有利。が、大内は驚異的な粘りを見せ、ポイントリードを死守し続ける。第7から第10Rまで、3、5、2、6マークの大城に対し、大内は6、4、5、6マークを打った。

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迎えた第11Rで大城が動く。一投目のトリプルでポイントを逆転すると、2投目は勝負のカット。が、第4R同様シングルとなる。大内は7マークでポイント差を広げた。ポイントは大城740対大内825。陣地で大城優位、ポイントで大内の状況は変わらない。

続く第12Rに動いたのは大内。先攻の大城が打ち終えた段階でポイントリードを保った大内は1投目にカット。しかし、シングル。プッシュの2投目もシングルで3投目は痛恨のミス。ポイント差は一気に21に縮まり、戦況は大城に大きく傾き、最終盤を迎えることとなった。

第13Rは両者4マークで得点差は5ポイントに。第14Rは両者6マークで、ついに大城がポイントを逆転した。

そして最終15R。大城は一投目にプッシュを選択したがシングル。カットを選んだ2投目はダブルで大内の16をクローズ。3投目をトリプルで加点すれば大城のキープだったが、痛恨のミス。ワンチャンスを得た大内はここ一番で集中力を発揮し、一本目に15をオープンし、2本目のトリプルで大接戦を制した。

大接戦の第3レグをブレイクした大内は、続く第4Rの701を手堅くキープし、2015年シーズン初優勝を遂げた。9ダーツTVの解説席に招かれた大内は、「優勝って言われて、最初はあれって思いました。何レグ獲っていたか分からなかったので、それくらい集中していたってことですかね」と激戦を振り返り、「試行錯誤してきましたが、最近の投げ方が一番好きなんです。それが、結果に繋がっているので、投げていて楽しいです」と、語った。

プロへの扉

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2004年9月、大内麻由美はシンガポールにいた。日本代表としてアジアパシフィックカップに出場するのが目的だった。

予選を突破し決勝トーナメントに駒を進めた大内は、ベスト16で国内でも対戦した記憶がなかった西川(当時、現浅野)ゆかりと対戦した。当時の西川は国内の女子には敵なしの絶対女王。隔年開催のワールドカップとアジア太平洋カップに連続出場し、代表2枠のうち一つは、西川の“指定席”と言われるほどだった。

しかし、ここで大内は強心臓ぶりを発揮する。西川の強さは話には聞いていても、実際に戦ったことがないため、実感はしていなかった。「絶対に勝てるわけはないとは思いませんでした。頑張ろう、くらいかな」と、臆することなく挑んだ大内は、大番狂わせを起こし、周囲を驚かせる。続く準々決勝でも勝利し、初出場で3位の成績を残した。

翌日のシンガポールオープンにも出場した大内は、決勝まで駒を進め、アジアパシフィックカップの3位がフロックではないことを示した。優勝したのは西川だった。

結果に驚いたのは大内だけではなかった。ダーツ普及のため女子選手の新しいスターを探し求めていたプーマダーツジャパンが、新星の大活躍を喜び、大内に声をかける。遠征費を負担するスポンサー契約だった。担当者は、大内麻由美モデルのバレルも作り、大内を売り出すと意気込んだ。

海外旅行気分で出かけたシンガポールから帰ってきたら、プロになっていた。「本気で練習しなきゃ」。初めて真剣にそう思った。

日本人初の快挙

彗星の如く現れた女子ダーツ界の新星の快進撃は、翌年も止まらなかった。1月に香港で開催されたブルシューターアジアで優勝すると、国内の大会でも安定した強さを発揮し、西川と同率のランキングトップでワールドカップ代表の座を獲得した。そして9月、オーストラリアのパース開催のワールドカップで3位の表彰台に立つ。西川も達成したことがなかった、日本人初の快挙だった。ダーツを始めて5年、初めて「本気で練習しなきゃ」と思ってから僅か1年で、大内は第一人者に躍り出た。名前が売れた。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。