COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2016年10月13日 更新(連載第82回)
Leg16
いつも夢見ていたPOLAR STAR。いつか届く、いつか伝わる。
北が南を溶かす、この情熱の熱情を。
髙木静加

Leg16 髙木静加(4)
無限の伸び代

女王レースが佳境を迎えている。10月1日の第15戦新潟大会を終えて、トップを走るのは髙木静加。年間総合ポイントは800Pで、669Pの2位の大城明香利に131P、621Pで3位の大内麻由美に179Pの差をつけて、レースは一人旅の様相を呈し始めた。残るは5大会。髙木の安定感を考えれば、これ以上差が開くと逆転は厳しい。22日の静岡大会は、追う大城、大内にとって正念場となる。

緊張したことしか憶えていない

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2013年7月、プロテストに一発合格した髙木は、翌月の札幌大会でプロデビューを果たした。
 初の舞台は、「緊張したことしか憶えていない」が、予選ロビンを2位で通過し、決勝トーナメントに勝ち上がる大健闘だった。

しかし、髙木は結果に満足しなかった。決勝トーナメント1回戦で、この日、優勝をさらった実力者小林千紗に敗退。それが悔しくてたまらなかった。負けん気に火が点いた。

どうしたら、もっとうまくなれるか。もっと強くなれるか。それまで我流でやってきた髙木が、他人に教えを乞うようになった。ダーツバーで投げている上手い人、だれかれ構わず、フォームや投げ方について意見 を求めた。プロの動画も見るようになった。松本恵の動画を繰り返し見ては研究し、自分の中で、自分の形を作っていった。亀の歩みが歩を速め出した。

大舞台で芽生えたプロの自覚

10月。北海道を離れ、初めての遠征で静岡大会に出場した。が、結果は予選ロビンで敗退。悔しくて眠れなかった。翌日、ダーツの地区対抗団体戦の砦に出場し3位に入賞。髙木は前日の悔しさをぶつけた。

初の遠征で、髙木は変わった。出場者も観客も多い大会で、それまで以上に、熱く燃えている自分がいた。出場者たちは目の色を変えて闘っている。凄い、と思う。が、自分もプロ。観客の前で、みっともないプレイはできない。
 大舞台を経験した髙木にプロの自覚が生まれた。

1戦ごとに強くなる

トップ選手ではとても珍しいことだが、髙木はプロデビュー前に実戦の経験がほとんどない。アマチュアの大きな大会に出場したのは1度だけ。あとはハウストーナメントに何度か参加した程度だった。

経験がないことは、もちろん、不利だったが、半面、大きな伸び代があったとも言える。事実、髙木は2014年に急成長を遂げる。

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この年の髙木は年間7大会にスポット参戦。初参戦の年は3戦を戦い1度しか決勝トーナメントに残れなかったが、この年は予選ロビン落ちは1度だけ。戦うたびに実力をつけ、3戦目の第8戦名古屋大会では、決勝トーナメント1回戦で「憧れ」の松本恵を倒す大金星を挙げ、ベスト8。初の入賞を果たした。さらに、最終戦の千葉では、3回戦で大内麻由美を破ってベスト4に名を連ね、一躍脚光を浴びた。

翌2015年シーズンは全戦に参戦。準優勝1回、ベスト4が1回、ベスト8は6回の堂々たる成績で、年間総合ランキング6位にまで、一気に駆け上った。が、自らは「だいたい、ぼこぼこにやられた印象」と昨シーズンの戦いを振り返る。試合を終え、札幌に帰ってくるたびに、負けた悔しさが募る。そして、「絶対抜かしてやる」と、心に誓っていた。髙木は優勝でなければ満足できないマインドの持ち主だった。それが、彼女をさらに大きく成長させる。

決勝で女王に勝利

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前述の通り、2015年シーズンに髙木は大城明香利と実に8度戦い7度退けられていた。が、その大城は、シーズン女王のインタビューで、戦って一番燃えたのは髙木だったと、その戦いを振り返り、「一度優勝させたら、手が付けられなくなる」と、予言していた。

迎えた2016年シーズン。髙木は「絶対に抜かしてやる」の誓いを成就させる戦いに挑んだ。開幕戦で悲願の初優勝。そして5月の第6戦福岡大会で、今季初めて、大城と対戦した。舞台は決勝だった。

髙木は後攻の第1レグでいきなりブレイク。ファーストラウンドから4R連続のハットトリックで女王を圧倒した。が、第2レグは一転、第1Rで9マークの大城にブレイクバックを許した。さらに、第3レグは12Rに及ぶ接戦の末、髙木がブレイクし、優勝に大手。決勝はブレイク合戦で第4レグに雪崩込んだ。

ZOOM UP LEG

2016 PERFECT【第6戦 福岡】
決勝戦 第4レグ「701」

髙木 静加(先攻)   大城 明香利(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
B B B 551 1R B B 7 594
B B 17 434 2R B B B 444
9 B B 325 3R B B B 294
3 B B 222 4R 19 B 20T 165
B B B 72 5R 20T 19 12 74
12T 12T   0
WIN
6R        
B=ブル T=トリプル D=ダブル
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第4レグは、両者充実のダーツで短期決戦となる。

第1R。先攻の髙木がハットトリック。大城は3本目を外した。が、第2Rは逆の展開。3本目を外した髙木に対し、大城はハットトリックで応戦。序盤はまったくの互角。

第3R。髙木は珍しく1本目を外した。リズムで投げる髙木にとっては痛恨。が、崩れることなく、2、3本目はブルに沈めた。一方の大城はハットトリック。が、ポイントは僅差だったが、その差が髙木を追い詰めることになる。

続く第4Rも髙木は1本目をミス。大城も1本目を外したが、2本目ブルのあと、20トリプリにチャレンジし、みごとに捩じ込んだ。髙木は残り222Pで、次のラウンドでは上がれない。対する大城は残り165Pで上がり目を残し、形勢を逆転。髙木を追い詰めた。

第5R。プレッシャーのかかる場面で髙木はブルを3本揃え、残り72P。大城にプレッシャーを与えた。一本でもミスすればほぼ勝ちのなくなる大城は、1投目の20トリプルを成功。2投目は19トリプルを選択したが、ダーツは無情にも1ドット上のシングルゾーンへ。3投目のブルも外した大城は苦笑い。第6R。髙木は12トリプル2本で優勝を決め、場内を驚かせた。

プレッシャーを楽しんでいる

最大の壁、大城を突破した髙木は、次節第7戦は決勝で大内麻由美を倒し連覇。勢いにのって女王レースのトップを走り続けている。成長を続ける髙木に、何が起こっているのか。大城は言う。
「去年より、後ろで待っている間の威圧感があります。自信が伝わってくるというのか。プレッシャーはあると思うのですが、そのプレッシャーを楽しんでいるように見えるのが、髙木さんのメンタルの強さだと思います。去年と一番変わったのはそこかも知れません。本当にダーツが好きで、だから勝ちたいという気持ちが、彼女から伝わってきます」

髙木がシーズンの目標に掲げていた「ダーツを楽しむ」は、対戦相手にも伝わり、それが、ライバルたちの重圧となっている。

応援を力に変える

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女王レースを独走し始めた髙木だが、大城や大内が、対戦相手によって戦略や戦術を変えたり、論理的にも技術的にもダーツをとことん突き詰めているのに対し、髙木には天性だけで突っ走っている印象がある。逆に言うと、初めて女王レースを戦っている髙木には、無限の伸び代が残されているとも言える。

伸び盛りの新星は、これからどこまで登りつめていくのか。
 「もちろん、今の目標はPERFECTの年間女王です。遠くの目標は、ハードをやりたいと思っています。海外にも行きたいです」
 遅咲きの花は、大きな志も手に入れた。

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髙木本人は、自らの成長をどうとらえているのか。
 「応援を力に変えることができるようになった」と、髙木は言う。
 「バレーのことがあったので、ダーツを本気でやるって決めた時に、今度は絶対に逃げないと決めていました。昔の自分だったら、プレッシャーになって逃げだしたくなっていた応援を、今は力に変えられています。バレーのときはたくさんの期待を裏切ってしまったので、ダーツでは応援してくださる皆さんに、恩返しをしたいと思っています」

絶対に逃げないと誓ってプロの世界に入った髙木は、もっとも苦手だった周囲の期待を味方につけるまでに成長していた。

(終わり)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。